生命システムは進化が作りあげた情報処理系システムです。 その情報処理系としての機能性は、物理的・化学的な制約の中で自然選択により最適化されてきています。 したがって生体情報処理の原理を理解するために、我々は
の3つを捉えることが重要であると考えています。またそのために必要な
を行っています。
生体の情報処理を表現し理解するためには、現象の本質を捉えた数理的な手法や理論が必要になります。 そのような理論や技術はすでに数理科学や物理、工学の分野で育まれてきたものが多くありますが、そのまま生命現象に適用できることは殆どありません。 生命現象を記述し理解するという目的に合わせてそれらを改変・改良、そして場合によっては創り出してゆくことが必要になります。 我々は以下のような様々な数理手法を目的に合わせ発展させています。
過去20年で躍進した生命現象の定量的計測技術により、現象を詳細に調べ、また理論を検証するためのデータが手に入る様になっています。 これらの定量データから適切に情報を取り出し理論との融合を実現するため、様々な情報学的手法が必要です。 また、シーケンスデータ・イメージングデータなどは高次元で時間情報を含む情報であり、これらを扱うには新しい情報学的な手法を新たに開発することも不可欠です。 我々は情報学的にも新規な手法の開発も合わせて行っています。
一見シンプルに思える単細胞などでもその振る舞いを精査すると極めて精工でかつ効率的に機能していることがわかります。 我々は細胞の情報処理の理解に向けて、共同研究者と協同しながら様々な現象の数理的な理解に取り組んでいます。
細胞はどのようにして確率的な感覚受容シグナルから動的な環境変動を感知し、適切な行動の選択につなげているのでしょうか? 走化性はこのような問題を扱う上で最もシンプルな系であると考えています。我々は大腸菌や細胞性粘菌を対象に理論モデルの構築と定量データを組み合わせ、この問題に取り組んでいます(Learn More)。
細胞は変動する環境下で能動的に表現型変化させ適応しますが、同時に集団としてたまたま適応的だった細胞が受動的に選択もされています。 この2つの適応と選択がどのように細胞や細胞集団の進化につながっているか、大腸菌などの系での系譜追跡やラマンを使った表現型計測を理論モデルなどと組み合わせ探求しています(Learn More)。
嗅覚系は匂い物質の複雑な混合からなる組み合わせ的化学情報を処理しています。 どの様に化学情報が受容・認識・処理されているのか?また我々は匂いなどの認識をデータから予測できるのかなどの問題に対し、理論および定量的な受容体応答や官能計測などを使ったデータ科学の両面から取り組んでいます。 また応用に向け企業とも共同研究しています。
我々の適応免疫系は、過去の感染を記憶し、以降の感染で適切に応答が可能です。 免疫がどの様に未知の外敵を認識し、過去の感染から適切な免疫応答を実現・学習しているのか? またどうその痕跡を免疫受容体のシーケンスデータから読み解き、我々の感染履歴や免疫状態を予測できるのかなどの問題に取り組んでいます(Learn More)。
発生は一つの細胞から多様な細胞群と空間構造が発生してくる過程です。そのメカニズムと原理は何なのか? また定量的なイメージデータから発生のダイナミクスや発生系譜情報をどのように再構築すればいいのか? などの問題に対して、深層学習や系譜解析・力学モデルなどを構築して取り組んでいます(Learn More)。
細胞や生体は個として機能すると同時に、集団としても複雑でまた機能的な挙動を実現しています。 細胞群はどのように細胞間の振る舞いを相互に制御し、集団探索などの機能を実現しているのか? また個と集団の間に生じる利害の不一致を生物はどう解消しているのか? などの問題に興味をもち取り組んでいます(Learn More)。
自己複製は生命特有の性質であり進化の必須条件です。 化学的なシステムにおいて、自己複製が実現するための必要・十分条件は未だわかっていません。 我々は自己複製を化学反応で実現する問題および、自己複製系がその結果として普遍的に保持する性質の探求も行っています(Learn More)。
細胞内の反応ネットワークは従来考えられていたよりも、個々の反応の特異性はそこまで高くなく、情報伝達や代謝触媒に混線や干渉が存在することが示唆されています。 混線や干渉が不可避な反応系で細胞は多様な情報をどう伝達・処理しているのか?などの問題にも取り組んでいます。