定量発生学

発生系譜を追跡し、再構成する Learn More

問とアプローチ

着床前胚の形成は、1つの受精卵が多能性細胞を含む複数の状態の細胞に分化・脱分化をする哺乳類胚発生の最も単純な第一ステップである。 複雑な多細胞構造が動的にまた空間的に形成される原理を理解するためには、発生の系譜を追跡し再構成することが不可欠である。 そのために我々と共同研究者は、長期胚培養、定量的3Dタイムラプスイメージング、画像からの細胞核の自動同定、核の自動追跡アルゴリズム、発生系譜の統計解析技法、そして胚発生の力学モデルなどの技術開発に取り組んでいます。 これらの手法は発生の理解のみならず、胚の状態を定量化し、その培養条件を最適化する応用にも貢献すると期待されます。

01.

3Dイメージングデータからの核の自動同定

発生系譜を画像データから再構成するはじめのステップは、発生中の胚内における3D画像内から細胞の位置を同定することである。 古典的な画像解析のアルゴリズムを組み合わせた単純な解析方法からスタートし、我々は最適化や深層ネットワークなどより複雑なアルゴリズムを組み合わせた手法を構築しています。 単純なアルゴリズムで得られ修正された教師データをより高度な手法のトレーニングデータとして使うことで、発生画像解析の精度向上を試みています。 (Learn more: [1], [2]).

02.

深層学習による細胞核同定

画像解析による情報抽出では、データの質や計測の条件などが変わった場合、パラメータの再設定・調整が必要になります。 ある程度の自動化はできるものの、3Dのような人が認識するのが難しいデータに対しての調整は経験が必要になります。 我々は深層学習手法を用いて、3D画像から細胞の核を同定する新たな手法を構築しました。 これにより、様々な条件で取得された異なる種の胚画像の解析が可能になります(Learn More)。

03.

分裂する細胞を画像から追跡する

分裂する細胞を追跡することは、細胞分裂に従って胚内の細胞数が増加することで、指数的に難しくなってゆきます。 安定した精度の高い追跡を分裂する細胞集団で実現するため、整数計画法を用いた追跡アルゴリズムの活用を行っています。 機械学習の手法などを使ってコスト関数を更に学習することで、さらなる精度の向上を目指しています。

04.

発生系譜を分類と統計解析

発生系譜を得ることで、胚の発生を比較する問題は、系譜を比較する問題へと帰着されます。 しかし連続時間の中で分岐を続ける系譜のようなデータは、生物外の物理・社会現象では一般的では無く、 そのために系譜を直接解析する統計手法は、統計学や機械学習において十分に発展しているとは言えません。 我々は、集団動態の経路積分表現の理論を基礎として、系譜データの定量的性質を解析する新たな統計手法の開発に取り組んでいます。

05.

発生過程を力学的モデル

胚発生において、個々の細胞の空間的な位置関係は、細胞やその娘細胞の運命決定に重要な役割を果たします。 どのように細胞の位置と運命が、細胞に働く力学的過程と細胞内の遺伝子発現の協調により決定されるのかを解析するため、 我々は胚発生の力学モデルの構築と、それを系譜データと組み合わせる手法の開発に取り組んでいます。