大腸菌、酵母、細胞性粘菌、培養細胞などの単細胞生物は、生命システムにおける定量的な法則を見出すためのよいモデルシステムです。 様々な実験研究者と協力することで、多様な定量データに様々な数理・データ解析手法を組み合わせ、新たな法則の発見に取り組んでいます。 特に我々は、1細胞レベルでの振る舞いと細胞ごとの確率性・多様性の結果として、どのように細胞集団の挙動や機能が実現しているか?に着目して研究を進めています。
エピジェネティクスは遺伝的な変化を共わずに親細胞から娘細胞に情報が伝達される現象です。 その主な作用機序はゲノムの化学修飾であり、またその機能の一つは緩やかに変動する環境への適応であると考えられます。 どのようにエピジェネティックな記憶が子孫細胞に継承されるかを理解するために、我々は酵母のエピジェネティック状態を1細胞レベルで数世代に渡り計測しました。 簡単な統計手法を用いることで、我々は1細胞レベルでのエピジェネティック記憶は極めて確率的でありながら、その安定性はゲノム上の異なる領域間で異なることを示しました。 (Learn more)
多細胞生物の体内時計は1細胞レベルでの細胞時計の集合体で構成されます。 しかし、1細胞レベルでの細胞時計の性質や振る舞いは、必ずしもそのまま集団・個体レベルでの時計に引き継がれるわけではありません。 その顕著な例が、概日時計のシンギュラリティであり、主観的夜に適度な強さで与えられた摂動により、時計が停止してしまう(時刻がわからなくなる)現象を指します。 この時間の消失は、個々の細胞時計が停止している可能性と、ここの細胞の時刻がバラけ、集団として時間が定義できなくなっている2つの可能性がありました。 我々はハイスループット計測と1細胞イメージングを組み合わせ、細胞時計の時刻の脱同調がシンギュラリティのメカニズムであることを示しました。 また数理モデルを用いて、1細胞時計の振る舞いから集団レベルで計測されたhるまいを定量的に再構成できることも明らかにしました(Learn more: [1], [2]).
細胞間相互作用は、個々の細胞の振る舞いや機能を強調させ、細胞集団を多細胞体として機能させる役割を担います。 どのようにして細胞間相互作用が複雑な細胞集団の挙動を制御し実現しているのかを理解するため、我々は、細胞性粘菌の化学走性に着目しています。 細胞性粘菌細胞は、細胞間相互作用と化学物質による相互作用の2つを有します。 我々は1細胞レベルで追跡した粘菌細胞集団の運動データに情報論適な手法を応用し、異なる動的性質を持つ部分集団を抽出しました。 この方法は、組織内における細胞の複雑な集団運動パターンを解析することにも活用できると期待されます。
1細胞レベルでの細胞の振る舞いはしばしば、より計測が簡単な集団レベルの振る舞いを元に推測されます。 しかし、1細胞の振る舞いが確率的で大きな多様性を持ち、また選択などの影響が働く場合には、1細胞レベルの振る舞いが集団レベルのそれと質的に異なることがあります。 我々は、人工遺伝子スイッチであるトグルスイッチを用いて、細胞の多様性と選択の相互作用により、この1細胞レベルと集団レベルの齟齬が生じることを実験と理論の組み合わせで実証しました(Learn more).